靖国神社公式参拝中止の要請

本年も、「戦没者を追悼し平和を祈念する日」がやってまいります。

先の大戦で、かけがえのない人々を失い、深い傷を負ったのは私たち日本人だけ ではありませんでした。この日は、すべての戦争犠牲者の声に耳を澄まし、平和を願 う取り組みの中で、私たちの悲しみと傷みと共に世界各地の多くの犠牲者に憶いをい たし、平和への誓いを新たにする日であります。

宗祖親鸞聖人は、「世の中安穏なれ、仏法ひろまれかし」と願われ、生きとし生け るすべての命の尊さに立って、その救済の道を説かれました。しかしながら、人類の 歴史は争いの歴史と言われるように、戦争止む事なく、殊に二十世紀は、戦争による 大量殺戮の時代でありました。私たちもまたその中にあって、宗祖親鸞聖人の教えに 背いたばかりか、仏法の名において多くの方々を戦地に送り出し、日本人のみならず 世界各地の人々に多大な惨禍をもたらしました。

私たち真宗教団連合に加盟する各宗派は、宗祖親鸞聖人の教えに立ち帰り、仏道 に基づく事ができなかった自らの歩みを深く懺悔し、決して過去の過ちを繰り返すこ とのないよう仏の前に自らを強く戒め、深い悲しみをもって、すべての戦争犠牲者に 追悼の誠を表すと共に、平和で人権が守られる世界を目指すことに、一層の努力をい たしたいと思うものであります。

靖国神社は、国のためにいのちを捧げた人のみを「英霊」として祀り、遺族や 他の戦争犠牲者の悲しみと怒りの矛先を曖昧にし、国家の戦争責任を回避する機能を 果たそうとする極めて政治的意図をもって創設された特異な宗教施設であります。し たがって、総理・閣僚各位による靖国神社公式参拝は、国家が担うべき戦争責任を放棄し 、戦争を思想的に支える行為になる事であり、見過ごすわけにはまいりません。

また、先の大戦の尊い犠牲の上に制定された現行の日本国憲法は、戦争放棄を表 明すると共に、信教の自由と政教分離の原則を謳っています。申すまでもなく、政教 分離の原則は、政治が特定の宗教へ干渉保護することを禁止すると共に、特定の宗教 が直接政治にかかわることも禁止した、近代国家における政治と宗教の基本原則であ ります。したがって、神道独自の慰霊の宗教行事を中心とする一宗教法人である靖国 神社へ公式参拝されることは、判例を引くまでもなく明らかな違憲行為とみなされるものであります。

よって、ここに、総理・閣僚各位による靖国神社への公式参拝を中止されますよ う強く要請いたし、また、国政のあらゆる局面において、政教分離の原則を遵守され ますことを強く要望いたします。

また、先の国会で成立した「日米防衛協力のための指針関連法」の法律が決して 発動されることのなきよう、民族、言語、文化、宗教及び思想の相違を越えて、豊か で平和な国際社会の建設に向けて、平和外交の不断の取り組みを重ねられるよう併せ て要望するものであります。

一九九九(平成十一)年八月九日

真宗教団連合    
浄土真宗本願寺派 総長 豊原 大成
真宗大谷派 宗務総長 木越  樹
真宗高田派 宗務総長 安藤 光淵
真宗佛光寺派 宗務総長 川端 照道
真宗興正派 宗務総長 秦  正静
真宗木辺派 宗務長 高田 信昭
真宗出雲路派 宗務長 菅原  弘
真宗誠照寺派 宗務長 波多野 淳護
真宗三門徒派 宗務長 寺川 秀丸
真宗山元派 宗務長 佛木 道宗

内閣総理大臣
小渕 恵三 殿

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