靖国神社公式参拝中止の要請

私たちは、まもなく「八月十五日」を迎えます。大日本帝国の名のもとに、いのち を奪い合い、日本においては三〇〇万人以上、とりわけアジア諸国等の二〇〇〇万人 を超える人びとを犠牲にした戦争が終結した日であります。

この日、我が国では「戦没者を追悼し平和を祈念する日」として各地でさまざま な追悼の行事が行われています。しかし、親族や肉親などかけがえのない人びとを失 った悲しみは、今なお癒されてはいません。またアジア諸国等の人びとにとっても、 その傷は決して消えていないことを改めて認識する日でもあります。

私たちが宗祖と仰ぐ親鸞聖人は、阿弥陀如来の大悲につつまれ生きとし生ける全 てのいのちの尊さに立って人間救済の道を説かれました。しかしながら、私たちは、 その教えに背き、先の大戦において多くの方々を戦地に送り出し、アジア諸国等の人 びとに筆舌に尽くし難い惨禍をもたらしました。このことについては、深く懺悔し、 決して過去の過ちを繰り返すことのないよう仏の前に自らを戒め、全ての戦争犠牲者 に対して追悼の誠を表すものであります。

私たち真宗教団連合に加盟する各宗派は、国家の政策のために亡くなっていかれ た方々に対して、国民一人ひとりが心から哀悼の意を表することを決して否定するも のではありません。

しかしながら、「靖国神社」は、その宗教法人規則に規定されているように一宗 教法人であります。このような一宗教施設への総理・閣僚の公式参拝は、先の最高裁 判所における愛媛玉串料違憲訴訟の判決の精神に照らしてみても、憲法第二十条の「 信教の自由、国の宗教活動の禁止」に違反することは明らかであります。さらに又、 軍人のみを「英霊」として祀り、他の戦没者・遺族の怒りの矛先を曖昧にしながら、 戦争を「聖戦」と呼び正当化する働きを担った靖国神社へ総理・閣僚が公式参拝され ることは、いのちの尊厳を踏みにじり、国家の犯した戦争責任を放棄し、差別といの ちの収奪を意のままにした戦前の軍国主義への逆行へつながる行為として、断じて見 過ごすわけにはいきません。直ちにこの公式参拝を中止されますようここに強く要請 いたします。

特に現在、日米軍事協力を強化するためのいわゆる「有事立法」が制定されよう としています。あの悲惨な戦争を「有事」という、それこそ血も涙もない言葉に置き 換えてまで進めなければならない今日の我が国の在り方を思うとき、戦争は決して終 わっていない感を強くするものであります。

また、そのような中、今年五月、インド・パキスタンの両国が地下核実験を強行 し、世界各地から抗議や非難が相次ぎました。今こそ、この地球上から核実験はもと より、すべての核兵器廃絶を願い、民族、言語、文化、宗教の相違を越えて、豊かで 平和な国際社会の建設にむけて、我が国がリーダーシップを執られ、不断の取り組み を重ねられますよう併せて強く要望する次第であります。

一九九八(平成十)年八月十二日

真宗教団連合    
浄土真宗本願寺派 総長 豊原 大成
真宗大谷派 宗務総長 能邨 英士
真宗高田派 宗務総長 安藤 光淵
真宗佛光寺派 宗務総長 川端 照道
真宗興正派 宗務総長 秦  正静
真宗木辺派 宗務長 高田 信昭
真宗出雲路派 宗務長 小泉 宗之
真宗誠照寺派 宗務長 安野 亮雄
真宗三門徒派 宗務長 寺川 秀丸
真宗山元派 宗務長 佛木 道宗

内閣総理大臣
小渕 恵三 殿

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