靖国神社公式参拝中止の要請

私たちは、日本国憲法が平和主義を原則とし、戦争を放棄して、国民の権利と自由を保障していることに大きな誇りをもっています。しかし、毎年八月十五日の「戦没者を追悼し平和を祈念する日」が近づいてきますと、総理、閣僚の靖国神社への公式参拝を求める声が一部ではあっても高まることに対して危惧の念を抱くものであり、総理、閣僚の方々が靖国神社に公式に参拝されることのないよう要請するものであります。

かつて靖国神社がいかなる役割を果たしてきたか、今一度、考えて頂きたいと思います。第二次世界大戦の終結まで、靖国神社は国家神道の重要な施設として、軍国主義の精神的支柱の役割を果たしてきたことは周知の事実であります。平和を願う私たち日本国民は、こうした事実を謙虚に受けとめて、同じ過ちを再び繰り返してはなりません。

真宗教団連合に加盟する各派も軍国主義に追随し、「聖戦」の名のもとに戦争の遂行に協力したことに対して、終戦から五十年の節目に当たる今年、改めて深く懺悔するとともに、私たちは「十方衆生よ」と呼びかけたもう阿弥陀如来の本願に信順して、すべての戦争犠牲者に追悼の誠を捧げ、人類共生の未来を切り開いていくことを願っております。

さらにまた、日本国憲法には、基本的人権を保障するとともに、信教の自由を認めています。信教の自由にかかわる重要な問題は、政教分離の原則であります。これはいかなる国家権力をもってしても侵害することはできません。戦争の犠牲者を追悼することは人間の心情として当然のことであり、私たちはそのことに反対しているのではありません。わたしたちは、国家を代表する公的立場にある総理、閣僚が、靖国神社に公式参拝されることについて反対しているのであります。なぜならば、現在の靖国神社は宗教法人法によって認められた一宗教法人であるからです。靖国神社が宗教法人である以上、総理、閣僚が公式参拝されることは、明らかに憲法に違反する行為であります。

私たち真宗教団連合は、、今日まで毎年、靖国神社公式参拝に反対しつづけてまいりました。これは私たち真宗教団連合の総意であることはいうまでもなく、私たちと同じ見解に立つ人びとの願いをも含めた意思表明なのであります。

総理、閣僚におかれては、過去の歴史の教訓と憲法の精神を真摯に受けとめられて、靖国神社公式参拝の是非について、適正な判断をされ、靖国神社への公式参拝を中止されるよう、ここに強く要請いたします。

一九九五(平成七)年八月七日

真宗教団連合    
浄土真宗本願寺派 総長 松村 了昌
真宗大谷派 宗務総長 能邨 英士
真宗高田派 宗務総長 安藤 光淵
真宗佛光寺派 宗務総長 梨本 哲雄
真宗興正派 宗務総長 日野 淳勝
真宗木辺派 宗務長 窓岡 秀道
真宗出雲路派 宗務長 小泉 宗之
真宗誠照寺派 宗務長 安野 亮雄
真宗三門徒派 宗務長 寺川 秀丸
真宗山元派 宗務長 藤堂  尚

内閣総理大臣
村山 富市 殿

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