靖国神社公式参拝中止の要請

ことしは敗戦から四十九年、広島・長崎をはじめとする多くの戦争犠牲者の五十回忌という節目に当たります。私たちは、親鸞聖人の教えに生きる者として、全戦没者に追悼の誠をささげるとともに、戦争で犠牲となられたすべての人びとと、その遺族の怒り、悲しみを心に刻み、民族を超え、国家を超えた平和な世界の構築に思いを新たにするものであります。

東西の冷戦構造崩壊後も、民族、宗教の対立に起因する紛争が続発し、新たな緊張が国際的に高まっていることを深く憂慮いたしております。

民族を超え、国家を超えてすべての人びとを平等に救済するという阿弥陀仏の本願は、人間の尊厳と平等という自覚をよびおこさずにはおかないと親鸞聖人は教示されています。この本願念仏の教えに生きる私たちは、過去の戦争に加担したことについて、改めて深く懺悔するものであります。

細川元総理は、先の大戦が「侵略戦争」であったことを、歴代の総理としては初めて認められました。かつて、わが国はその戦争を"聖戦"と呼称し、積極的に戦争の拡大をはかり、わが国はもとよりアジア、太平洋地域におびただしい犠牲者を生みだしたのであります。その軍国主義を背後から強力に支える役割を果たしてきたのが、国家神道にもとづいてつくられた宗教施設としての靖国神社であります。

しかしながら、毎年八月十五日の「戦没者を追悼し平和を祈念する日」が近づきますと、総理、閣僚の靖国神社への公式参拝を求める声がおこってまいります。

私たちは全戦没者をいたみ、再び、国民に定められた思想信仰を強制し他の国を犠牲にすることのない国家にするため、あらゆる努力を傾注しなければなりません。靖国神社への公式参拝は、悲惨な体験を再現することにつながるものとの印象を近隣諸国に与え、人間の尊厳と自覚にもとることと申せましょう。このことは、いうまでもなく、そうした私たちのとるべき行為に逆行するものであります。また、靖国神社公式参拝は、憲法にうたわれた政教分離の原則をふみにじるものといわねばなりません。いかなる参拝形式をとられようとも、総理、閣僚の公式参拝は、政治が宗教の領域に踏み込むものであり、基本的人権の精神をおかす行為であると思います。

私たちは、全戦没者を追悼し平和を祈願するものとして、かかる理由から、総理、閣僚の靖国神社への公式参拝を中止されるよう、ここに強く要請いたします。

平成六(一九九四)年八月十一日

真宗教団連合    
浄土真宗本願寺派 総長 松村 了昌
真宗大谷派 宗務総長 能邨 英士
真宗高田派 宗務総長 安藤 光淵
真宗仏光寺派 宗務総長 梨本 哲雄
真宗興正派 宗務総長 日野 淳勝
真宗木辺派 宗務長 石原 賢成
真宗出雲路派 宗務長 小泉 宗之
真宗誠照寺派 宗務長 波多野淳華
真宗三門徒派 宗務長 寺川 秀丸
真宗山元派 宗務長 藤堂  尚

内閣総理大臣
村山 富市 殿

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