靖国神社公式参拝の中止を要請します

今年もまた、八月十五日の「戦没者を追悼し平和を祈念する日」がまいりますが、首相、閣僚の靖国神社への公式参拝は、見合せられたかに聞き及んでおります。

過去幾度となく申し上げたとおり、靖国神社が、創建の始めから神霊に拝礼を行ってきた宗教施設であることは明白な事実であります。したがって宗教団体たる靖国神社に、いかなる形式であれ首相、閣僚が公式に参拝されることは、憲法に定める信教の自由、政教分離の原則に違反していることは疑問の余地がありません。

信教の自由という基本的人権を奪われ、生命の尊さを無視された国民生活が、いかにみじめであるかをお考え下さい。政治と宗教が国家権力によって一体化したときの恐ろしさは、過去の歴史が生々しく物語っています。ことに昨今、戦前の国家神道復活であるという印象を世界に与えていることを思うとき、靖国神社公式参拝は千載に悔いを残す行為といわざるを得ません。

戦争のために生命を失われた方々に哀悼の意を表することは、私たちとて人後におちるものではありません。しかし、それはそれぞれの信仰によってなされるべきであり、その哀悼を通して平和への願いをあらたにすることこそ戦没者にむくいる道となるのであります。

全国民の指導的立場にある首相、閣僚が、日本の将来を絶対誤らせることのないよう、今後とも靖国神社公式参拝の中止を要請いたします。

昭和六十一年八月一日

内閣総理大臣
中曽根　康弘　殿