首相、閣僚の靖国神社公式参拝反対についての要請
中曽根首相は、終戦記念日の八月十五日に靖国神社に参拝する意向を表明せられ、また多数の閣僚も参拝を予定しておられることがあきらかにされております。
首相は更に「靖国神社公式参拝は憲法違反の疑いがある」という従来からの内閣法制局見解を検討し直すことを表明され、しかも、靖国神社公式参拝について「合憲論」を根拠づけるよう自民党に指示せられたと伝えられております。
これらの情況から、首相は、靖国神社へ首相あるいは閣僚の資格で公式参拝を実行しようとしておられるものと判断いたします。
われわれは、戦没者の追悼は当然なさねばならないことであると考えます。また、首相、閣僚が、全く私人として参拝されることについては、何等是否を申すものではありません。
しかし、ある特定の宗教行事や施設に、首相あるいは閣僚が、その資格で公式に参拝されることは、行われてはならないと考えます。国家は、すべての宗教に対して平等であるべきで、特定の宗教に対して特別の姿勢を示すことは、あってはならないからであります。もし、国家がそのような態度をとれば、必然的に、信教の自由は圧迫され、人間の精神はみじめにふみにじられるという事態を生ずることになります。そのようなことは決してあってはなりません。これは、憲法上の問題であることは申すまでもありませんが、それ以前の当然の道理でもあります。ひとたび、国家によって宗教が差別的に取扱われることになりますと、人間精神の内奥を政治権力がおかすこととなります。これは、まさに人間の尊厳にかかわることであります。
わが国内には多数の宗教があります。その中には、神を拝まず、神としてまつるいわれを認めないものがあり、従って「死者の霊を鎮魂し、神としてまつる」ということは、決して国民全体に通用することではありません。
われわれ真宗教徒にとりまして、靖国問題は単なる憲法論議ではなく、信心にかかわる問題であり、人間の最も重要なこゝろにかかわる問題であります。日本国憲法はこの道理を認めて、政教分離、信教自由を規定しているのであります。憲法は必ずまもられなければなりません。靖国神社は「宗教法人靖国神社」という名の示すごとくに、神道による特定の宗教施設であることは明瞭であり、したがって、「公式参拝」が行われてはならないのであります。
さきに申しましたように、戦没者を追悼することは行われなければなりませんが、そのためにわれわれは「公式参拝」を行いうる戦没者追悼の国家的施設を設けられることを要望するものであります。それは、現状の靖国神社という特定の宗教によるものではなくて、何れの宗教信者でも、それぞれの信仰と儀礼によって追悼することのできる、たとえば廟墓的施設であります。
以上、われわれは、首相および閣僚の靖国神社参拝は、あくまでも私人としての参拝であることを明らかにされることを要望いたしますと共に、戦没者追悼の国家的施設を設けられることを強く要望するものであります。
昭和五十八年八月十二日
真宗教団連合
時局対策委員長 朝枝 実彬
内閣総理大臣
中曽根 康弘 殿
真宗教団連合加盟宗派
浄土真宗本願寺派
真宗大谷派
真宗高田派
真宗佛光寺派
真宗興正派
真宗木辺派
真宗出雲路派
真宗誠照寺派
真宗三門徒派
真宗山元派
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